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映画、漫画、革のブログです

#ルックバック を、改めてネタバレありで語りたい

映画 ルックバック ね

本当に、ポジティブな意味で見れてよかったなと本当に思うのだけれども

いろいろネタバレ込みで、原作込みで語りたくなるよね

 

belphegor729.hatenablog.com

 

と思ったので、ネタバレあり感想も書きなぐってみました

 

 

 

4コマについて

なんというか、改めて思い返して「うっ」ってなったのがここで

京本を狭い部屋から出させたのが藤本の4コマだったとしたら

京本の死に打ちひしがれていた藤本を、もう一度漫画の作業机に呼び戻したのも

京本が書いた、そして、あの細い扉の隙間から抜け出してきた4コマなんだよなというのが

小学4年生から大学生、約10年越しのキャッチボールという感じでものすごくエモかった

きっと原作者自身が、漫画に、あるいは映画やアニメなどのコンテンツに救われた原体験があるんじゃないかな

作中のいたるところに「漫画は微力かもしれないけれども無力じゃないんだ」

という強い信念を感じるし

その微力が集まっていつか山を動かすんだ

という信念も感じる

 

増やした描写が蛇足になっていないのも凄い

そして、今回映画化することで、原作を余すところなく使い切ったうえで

そういうクリエイトへの賛歌をより膨らませるような加筆が

原作の魅力を損なうことなく、上乗せする形で乗っかっているのが

原作の魅力だけではない本作の魅力になっているなと思うんですよね

 

特に、バレなしでも書いた、京本に褒められて喜びを隠しきれない帰り道と

賞金で豪遊するシーン

京本の訃報を聞くまでのシーン

そして、最後、過去を回想するシーンでの「じゃあ藤野ちゃんはなんで描いているの?」の後のシーン

 

入賞した賞金で豪遊するシーンは、パンフレットで原作者も絶賛しているんだけど

大胆な構図がキラキラしていて、本作の中でも一番陽のオーラがにじんでいたシーンだと思うんですよね。色がついたというのも良いし、その後のくだりでも、二人の思い出が増えるごとに読み切りができていくシーンも含めてじっくりと描くことで、

このころが二人の中で一番幸せだったんだろうな・・・というのも感じさせます

そして、京本の訃報を聞くまでのくだりは原作だと結構あっさりしているんだけど

アニメでは、アンケートの順位に一喜一憂しながら、(チェンソーマンの順位だったりするのかな)

順位が安定して上位を獲得しつつも、締め切りに追われ、過酷な現場でアシスタントの調整にも苦しんでいる、社会人としての藤野がより解像度を上げてきたなとその中で、シームレスに導入されていくニュースも鳥肌ものでした

最後の、京本からの問いかけ、入場者特典のネームでは存在しなかったんですよ

ネームはネームで、二人でじゃれあいながら漫画を作る幸せな回想が違う構図であったんだけど、そこに、あえて、京本の問いかけを入れたのは、藤野が再起するきっかけをしっかりと明示したい、という改変なのかなと思いましたし

その後に、二人で捜索をしていた時期が、藤野にとってどれだけ得難い時間だったか

それをより解像度を上げて提示することで藤野の覚悟が決まっていくのがより強調されたのかなと、ここ、京本役の吉田美月喜さんも抜群に良かった

あどけない感じがね

そして主演の河合優実さんも、10代から20代までを声優未経験とは思えないくらいクリアーに演じられていましたね

パラレルの京本に「なんでマンガ書くのやめちゃったんですか?」

って聞かれた後の、ちょっと言いよどんだ後に

「最近また描き始めたよ!」っていうところの声が抜群に好き

あ、これあれか、パラレルだろうと、小学生だろうと大学生だろうと

京本にこう聞かれたら、藤野はこう答える

っていう藤野のキャラクターを表しているのか・・・

今気が付いた・・・これもまたエモい・・・

 

そして、本作で情報が増えたからといって、原作の魅力が損なわれるかというと全くそんなことはなくて、原作はそぎ落とした極限の美学がある

どちらがいいではなく、どちらも良い

といえるのが本当に幸せなメディアミックスだったと思います

 

パンフレット買いました

 

そんで、あんまりにも良すぎたので、買ってしまいましたよ

パンフレット

パンフレットあんまり買わないんだよねーとか言いながら、今年はオッペンハイマーに続き2冊目だったりもするんですけどね

 

belphegor729.hatenablog.com

パンフ買いたくなるくらい良い映画が今年すでに2本もあるのはうれしいですね

で、パンフを読んで意外だったのが

 

本作の、一番最初の動機が、3.11だったということらしく

京アニ事件も、作品の肉付けではあったと思うのだけど

もっと原初のところで、東北出身で、大学入学時に3.11を経験し

ボランティアに参加するも何もできなかった、という無力感があったそうで

なるほど藤野の「漫画を描いてもなんの役にも立たないのに」という吐露は、この原体験からだったのかと

確かに、京アニ事件を落とし込んでのこのセリフだとうまくはまらない気がするのですが

大きな災害について、人ひとりの出来ることはなんて無力なんだろうという虚無感の表れだとしたら凄くしっくりくる

そして、作中の無差別殺人犯は、3.11の擬人化で、人が起こせる事件として、同じく大きな衝撃と、虚無感を多くのアニメファンに植え付けた、京アニ事件が引用されたのだろうか

そのほか、クリエイターのための作品だからこその、キャスト、監督、原作者だけでなく、主要な製作スタッフに見どころだったり、観客へのメッセージだったりをまとめたページがあって、これは映画に感動した人はぜひ手に取ってほしいパンフレットだと思いましたね

 

ルックバックとワンスアポンアタイムインハリウッド

原作の感想でも述べたんだけど

本作の後半は間違いなくワンスアポンアタイムインハリウッドのオマージュだと思っていて

belphegor729.hatenablog.com

理不尽な八つ当たりで、将来ある才能豊かなアーティストが無残に殺された

そんな現実も否定したいし、彼らそのものを否定したい

彼らそのものを否定するために

ワンハリは、ディカプリオ演じるリックが殺人犯を殺すのに、おもちゃみたいな火炎放射器で焼き殺すという滑稽な殺され方で、笑いものにして貶めているんだけど

(私はそういう風に裏の意図を受け取ってしまって笑うどころか号泣していたのだが)

ルックバックも、殺人鬼を撃退するシーンでは、ペルソナ4の千絵ちゃんみたいな

グリーンのジャージでライダーキックというかなりコミカルに寄った演出で

お前らの存在なんておもちゃにしてやる、という意思を感じずにはいられない

犯罪者には名を与えない、と同じような感覚ですね

殺人鬼をダサいものとして、矮小化して彼らの目的を否定する

 

ルックバックとDon't look back in anger

原作紹介読み返して、そういえばそうでしたね、と思ったのが

オアシスのオマージュ

さすがにアニメではこのオマージュはむつかしすぎてできなかったみたいですが

改めてDon't look back in angerいい曲ですね

Don't look back in anger(怒りで過去を振り返らないで)

というフレーズが、とにかく思い出の中の京本がいつもキラキラしているのにつながっているなと思うんですよね

「京本を部屋から出さなかったら死ぬことはなかったのでは?」

と自責の念に押しつぶされそうになる藤野に届いた過去の京本からの4コマ

(勝手な予想だけど、週刊連載の多忙さと藤野の性格的に、あそこで分かれてから一度も連絡とってないんじゃないかなという気がして、その後悔も藤野は大きそうな気がしているんですよね)

藤野と一緒に部屋を出たからこそ、見れた景色

都会でのデート、読み切りを書くたびいろんなところに連れて行ってくれた思い出は

間違いなく、パラレルの、一人で美大を目指した京本よりも幸せだったはずで

だからこそ、Don't look back in anger (at yourself)

自分への怒りとともに過去を思い出さないでほしい

一緒にいて楽しかったその思い出だけ思い出してほしい

この曲とともに漫画を読み返すと、そんなイメージも湧き上がってきます

 

 

最後にもうちょっとだけ原作を語りたい

原作の魅力って、悲劇を乗り越えて作り続けるクリエイター賛歌ですよね

そこのキーとなるポイントが、やっぱり、あのシーンだと思うんです

なぜ漫画を描くのか

それは、京本が喜んでくれたから

なんじゃないか、少なくともきっかけはそこだったんじゃないか

そして、そのことに、今、藤野が気づく、というシーンなんじゃないか

だからこそ、ここで筆を折ったら、京本はどう思うか

美大に通いながらも自室に4コマの下書きが張られていたのは、

私の妄想でしかないけれど、美大を卒業してよりクオリティアップした技術を引っ提げて

また藤野と一緒に漫画を描きたかったんじゃないかなと思うんですよね

藤野も、京本も、またいつか一緒に漫画を描きたかったに違いない

だからこそ、藤野はもう立ち止まらない。立ち止まれない

そんな気迫のこもった後ろ姿に、原作公開時に様々なジャンルのアーティストたちが

こぞって呑み込まれ、絶賛していったのかなと思うんですよね

 

そしてここからは私の妄想だけど

京本が世に残した商業作品って、藤野の読み切り7本だけなんよね

だから、藤野キョウが短編集を出すときは、きっと京本の思い出と、謝意を巻末とかに書くんだろうなぁ見たいなことを想像してまた涙で前が見えなく・・・

おじさんそういうの弱い・・・