正直原作未読で映画を見た人がうらやましいと思っていて
原作を知らなければ、気にならずにすっと入ったのでは、と思うところは多々あるのです
で、映画しか見ていない人については、ぜひ原作を読んで
映画が描き切れずに泣く泣く削った部分がどれくらい深かったのか
ということをぜひ知ってほしいんです
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原作はもっと詩的
映画ではバッサリと朝のモノローグをカットしちゃったり
槙生の書く小説から引用されるセリフもバッサリカットしているので
その傾向がより強くなっているのだけど
やっぱり小説家の物語ですし
また朝も軽音楽部で作詞をして歌うくらいなので、結構独特の世界観をモノローグで披露しているわけです
槙生の重厚な語り口と
朝のポップでとらえどころのないリリックだったりが楽しめるところが
原作のまず最初の推しポイントだと思うんですよね
どう頑張っても映画って絵で魅せるものなので、その雰囲気をそのまま映画にもっていくのはむつかしいですよね
朝を囲むキャラクターたち
映画では、槙生と朝の二人の関係性にぐぐっとフォーカスしていて、
槙生の友達のナナちゃんや、朝のクラスメイトのえみり、千世、三森たちとの関係になかなかつながりを作れていないのだけれども
特にクラスメイトですね
クラスメイト達がそれぞれに持つ固有の悩みが、一つ一つ朝の血肉になっていく
えみりの人に言えない恋の悩みが
千世の世の理不尽にぶち当たった行き場のない怒りが
三森は好きなことを続けるかどうかについて
それぞれが”自分はどうか”という視点につながり
寄る辺ない朝のパーソナリティの確立につながっていく
朝と関わる大人たちも、
笠町は両親との確執があり
映画ではワンシーンしか出なかった塔野は、人の心を推し量れず、不用意に傷つけることに悩んでいる(私も悩んでいるので原作の塔野さんの共感度めちゃめちゃ高い)
発達障害を自覚している槙生も含め
大人たちが、大人たちだって悩みながら生きていることを
だから自分が何なのか悩み続けていいんだ
と悩む朝を肯定し、だけど悩む姿を見せることで朝のパーソナルを育てていく話の組み立て方に、改めて感服するのです
凄いんよ。原作
朝のキャラクター設定
私は映画と原作でここが一番違うと思っているんです
映画の朝は、割と感情的になりやすくて
それは、槙生とよくケンカしたりしていることからもわかるんだけど
原作の朝は、ある意味でいかにも漫画らしい、とらえどころのないひょうひょうとした性格をしているんです
だから、コミュ障の槙生のスイッチが入って、がち、っとなりそうなシーンでも
すっと朝が引くので大事には至らない
で、多分これは、両親を亡くしてしまったショックから、過度に思いつめないような精神防御を無意識にしているんじゃないかなと思っていて
でも、そんな自分にも悩んでいる
親の死に泣けない自分に悩んでいて
ある意味で、その精神的なブロックを、朝が成長することによって自ら解き放っていく
大人になって、泣けるようになっていく話でもあるのかなぁと思うんですよね
ただここはだいぶ解釈違っている自覚はあります
そういう見方もあるということで
槙生と姉について
映画の槙生は、「姉は嫌いだ」から動きたくない、ピクルスのようにいつか好きになるようなことにはなりたくない。
というのを一本筋として持っていたのだけれども
原作の槙生は良くも悪くもドライ
たとえどんな理由があったにせよ、姉が自分に向けて行った仕打ちを許すことはない
そういった意味で「姉は嫌いだ」が、かといって、姉がそうせざるを得なかった理由についても一定の理解をしていて
姉には姉の苦労があったことは認めている
苦労があり、無念があり、愛情があった
姉に対して、2つの感情を同居させて、それでよいとする原作の槙生
亡き姉に思いをはせられることで、槙生周りのストーリーにものすごく深みが出ています
ただ、ここは手を出すと本当に時間が足りなくなるので、映画化するにあたってオミットしたのは仕方がないのかなとも思います
朝が喪失を自覚する物語であることの美しさ
時間が足りなくて映画がたどり着けなかった原作の後半は、そこに至るにつれて
亡き朝の両親に、朝や槙生が思いをはせるくだりがだんだんと増えていきます
過去のシーンを挟みつつ、ただし死んだ二人には絶対にモノローグを入れない
生きている朝や槙生とは対称なこの演出により
事実としてこんなことがあった、というのは見せるけれども
だから二人がこんなことを考えていた、というのは絶対に出さない
なぜなら「死んだ人のことはわからない」から
この徹底した断絶を描きつつ、それでもなお、両親が自分のことをどう思っていたのか知りたい朝
朝のことをどう思っていたのかに思いをはせる槙生の
生きているものと死んでいるものの対比が
朝と槙生の関係性の変化と合わさって
もう最終巻は本当に
涙なしでは見れないので
映画が面白かったと思った未読の人たち
映画の先にはもっと最高のストーリーが待っているので
買うのです。原作を
読むのです。原作を
ちなみに
1年前の感想でも書きましたが
死んでしまって、ノートだけ残し、
そのノートを読んだ朝がどんな感想を持つかも知ることができない母 実里
もちろん読者である私もその内面は想像することしかできないのだけど
だからこそその無念を強く感じ取ってしまって
1巻から11巻に向けて大きくその評価が変わったキャラですね