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胸にジワリと広がる温かい映画|TOKYOタクシー 感想レビュー

フランス映画『パリタクシー』を日本に移しリメイクした、名監督山田洋次の最新作『TOKYOタクシー』。

movies.shochiku.co.jp

 

正直、山田洋次さんの作品1本も見てないし、原作も知らなかったし、キムタクの映画も「スペースバトルシップヤマト」以来見ていないし(実は結構好きです。今見直したら文句言いそうだけど💦)

多分見ないかなぁと思っていたのですが
2か月くらい前、松竹の配給の方と話す機会があって、
「この冬、本作を本気で推します。映画好きならぜひ」

といわれ、心の片隅にずっと引っかかっていたんです。

しかも、公開されてからの反応がやたらと良い。

映画館CMもバンバンうっていた同日公開のアニメ映画「果てしなきスカーレット」を抑えて初登場一位だそうじゃないですか。
それで、その方ともまた会う予定があったし、
これはもう、冬のうちにこの“タクシーの旅”に乗り込んでおくべきだろう、と。

そんなちょっとした“きっかけの寄り道”から観ることになったこの映画は、
思わず涙ぐむシーンも多く、想像していたよりずっと優しくて、
観終わってからもしばらく胸の底で、
ゆっくりと熱が残るような作品でした。

映画TOKYOタクシーのポスター。木村拓哉と倍賞千恵子が登場するビジュアル

そんな熱が冷めないうちに、ブログをしたためておこうと思います。

 

 

名優たちの温かい演技が光る映画

『TOKYOタクシー』って、物語の入口は本当に小さくて。
ぎりぎりの生活を送っているタクシードライバー宇佐美浩二(木村拓哉)が、体調を崩した仕事仲間の代わりに、風変わりな老婦人高野すみれ(倍賞千恵子)を乗せて、目的地の神奈川葉山まで連れていく、その中で、彼女の半生を聞きながら、浩二と一緒に昭和日本史を追体験していく。
舞台は小さなタクシーの中

爆弾のような事件も、チェンソーマンのような起承転結もない。
本当にシンプルな作品で、正直なところを言うと、多分家でサブスクで見ていたら最後まで集中して見れなかったろうな、と思わなくはないのだけど。
それでも約100分を飽きさせずに見れたのは、名優たちの自然体な演技の中に横たわる、山田洋次監督の画面構成にあるのかなと。

木村拓哉の枯れた演技が“染みる”

木村拓哉さんのタクシードライバー役、
これがもう、驚くほど良い。

前述のとおり私はキムタク主演映画を1本しか見ていないし

もともとドラマは見ない人なので、俳優木村拓哉の演技力は
ネットで揶揄されている、という程度のことしか知らなくて。

ただ、別にヤマトもそんな悪くなかったしなーというのが感想だったので

そこからさらに年を重ね、ギラギラしていない自然体な演技をされるようになったんだなと、思わず見とれてしまいました。
仕事や家庭の問題で心に余裕のなかった序盤
すみれの話を聞きながら、だんだん心がほぐれてきて時折見せるようになった笑顔
最後に待っていた大きな後悔
そのすべての表情がまさに日本映画界を引っ張ってきた名優だからできる演技だなと思いましたね。

最新技術をそれとなく取り入れた画面構成の妙

で、そんな本作、多分なのですが
本作のタクシー内シーンは、
バーチャルプロダクションという最新技術を使っていると思います。
巨大なスクリーンの前で演技をするやつですね。
松竹映画ですが、東宝スタジオが撮影協力で入っているのでおそらくそうかなと

──これが本当に良かった。

この技術を使うことによって、実際の道路で撮影するには法律の制限で難易度が上がるカメラワークを、無理なく、自然に行うことができるようになります。
例えば、タクシーを横から、並走するように映すカメラワークや、フロントガラスの前、ボンネットあたりからキムタクを狙うカメラ位置とか。
もちろんこれまでも、背景をCGで加工する、ということはやってきたと思いますが、この技術で大幅なコスト削減につながると聞いたことがあります。
そんな最新技術をこれ見よがしに使うのではなく、知らない人には全く気がづかない、
自然な感じで取り入れている、そして御年94歳の監督が
最新技術をしっかりとキャッチアップして取り入れている。
もちろんわきを固めるスタッフの助言ではあろうとは思いますが
日々映画は進化していくんだ、ということも感じますね。
これで全然違ったらクッソ恥ずかしいですがw

私の大好きな映画『千年女優』との共通点

本作、正直なところものすごく刺さりまして、最後なんかキムタクとシンクロしちゃって嗚咽しながら見ていたんだけど
なんでこの映画にここまで心を惹かれているのかなと考えたときに
今敏監督の名画『千年女優』と似ているからだと気づきました。

Blu-rayパッケージ 千年女優。今敏監督作品で昭和の女性俳優の半生を描く名作

小さな空間で、一人の女性の半生を中年男性と聞きながら、昭和日本史に思いをはせる

という背骨の構成が一緒なんですよね。
国宝も割と近しい側面はあるけど、より近いのはこちらかなと。マイナーなのは承知していますが・・・
好きなタイプのプロットだったので、物語に対する私の親和性が高く、気づかずするっと世界に入り込めたのかなと。

さらに円熟した名優の演技を堪能できたらそりゃ刺さるよねと。

同じ理由で、「かげきしょうじょ」という漫画に出てくる国広先生のエピソードも好きなんだけど、ちょっとわきにそれすぎるので割愛。

 

結末は予想できる。でも、それがむしろいい。

ラストも、正直言えば読める。
はじめのほうで「あ、きっとこうだろうな」と察する。

でも、それでいいんですよね。

驚かせるためじゃなく、
“その形”にたどり着くことに意味がある物語。
だからむしろ安心して観られる。

結末のサプライズよりも、
その道のりで交わされる言葉とか、
俳優たちの些細なしぐさとか、
そっちに心が向く。

予想できる展開を、
丁寧に、愛を込めて、
ちゃんと「観る価値のあるもの」にしてくれた映画でした。


ちょっと気になるところもなくはないけど・・・

まぁ気になるところもなくはないかな?

過去と現在がリンクしきれていないところもあったり。
すみれさんの思い出が東京がメインだから、横浜に来るとすぐ葉山についちゃったり。

作劇上日本から出れないから、すみれさんの後半生がほとんど語られなかったり。
こんな経歴でどうして東京都内に一軒家持っているんだろう、っていうみんなが思うであろう謎の答え合わせだと思うのですが、100分はすみれさんの人生を語るには短すぎたのかなぁとかね。
でもそんな不満をわきに追いやれるくらい、二人の掛け合いが良かった。

総評──こんなに静かな物語が、ここまで心に効くなんて

『TOKYOタクシー』は、見慣れた街を背景に、時代を超えた人生を静かに、しかし確実に心に刻む作品です。

  • 木村拓哉の圧倒的な演技
  • 最新技術で描かれるタクシー内の映像美
  • 予想できる展開だからこその安心感

これらが絶妙に絡み合い、冬の夜に心を温めてくれる映画でした。
派手なアクションや大事件を求めなくても、映画を純粋に楽しみたい人にはおすすめです。
劇場を出たあと、しばらく余韻に浸りながら、誰かに語りたくなる──そんな映画でした。

原作のパリタクシーもプライムビデオで無料配信中なようなので、見てみたいと思っています。

フランス映画パリタクシー Blu-rayパッケージ。原作映画のパッケージビジュアル

パリタクシー

  • リーヌ・ルノー
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関連記事

感想で触れた、今敏干拓の名作、千年女優のレビューです。

TOKYOタクシー面白かったよ。

という人は、こちらも絶対に刺さるはずなので、ぜひ見てほしいです。

belphegor729.hatenablog.com

 

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こちらも少し触れた「かげきしょうじょ」の話

国広先生は、戦後焼け野原になった日本で、宝塚歌劇団(をモチーフにした紅華歌劇団)とともに歴史を歩んだおじいちゃん先生で、多くは語られないですが、作中で語られる断片が、今回観た『TOKYOタクシー』のすみれさんの生涯とどこか通じるところがありました。

belphegor729.hatenablog.com

 

 

ちょっとネタバレ:個人的に好きな下り

若き日のスミレが、精神的に追い詰められて、夫のXXに熱湯?油?をかけてダメにしたシーン

「えぇぇぇ、これ倫理的に大丈夫なんか・・・」

とドン引きした後に、ちゃんと裁かれていたことに安心しましたw

で、そのあとに浩二が奥さんに電話をするくだりも、

「あー話を聞いて玉ひゅんしたんですねw」

とちょっとほっこりしましたw