前回は革の基本的な知識について簡単に紹介をしました。
今回はそれを基に、革を作る元の動物の種類で大きく分類したうえで、鞣し方や後処理による革の種類について説明していこうと思います。
牛革
牛は世界で食肉で消費されている生き物の一つで、皮革の供給量としても最大規模のものになります。
牛革は生育年齢や性別、飼育環境で革の特性が大きく変わるため、それぞれに革の名称を付けて区別しています。
カーフ 6か月以内の子牛。薄くしなやか、子牛であるため、1頭からとれる面積は狭く高価。
子牛の食用がヨーロッパで減っているらしく、供給量はさらに減ってきており、特に状態の良いものは一般には出回っていないといわれています。
キップ 生後6か月~2年の牛。カーフよりはしっかりとした革になるが、それでもしなやかで1頭からとれる面積も増えます。
カーフとキップを分けているのは日本だけで、海外では全部カーフとして分類されます。
そのため、日本基準でのカーフのことをあえてベビーカーフと呼ぶこともあります。
(生後3か月までの子牛の革のことを言うこともある。)
ステア
(食用にするため)去勢された2歳以上の牡牛。厚みがあり丈夫。均一で広い面積が取れるため、最もポピュラーです。
ブル
(繁殖用に)去勢をされなかった2歳以上の牡牛。厚みがあり、堅く丈夫。
去勢されていないため、気性が荒く、革に傷が多いといわれます。
カウ
出産を経験した2歳以上のメス牛。ステアと比べてやわらかく、キップよりも面積が取れるのが利点です。
鞣しによる分類
タンニン鞣し
皮を鞣す際に樹木の樹皮からとれた渋(タンニン)に付け込んだものをタンニン鞣しと呼びます。
伝統的な鞣し方法で、鞣すこと自体をを英語で『タニング』と呼び、鞣しをする業者のことを『タンナー』と呼びます。『タンニン』は鞣しに使われる液体のことを指す言葉として生まれました。
タンニン鞣しは最初はタンニン濃度の薄い槽に、徐々に濃度の濃い槽に付け込んでいき、ゆっくりじっくりと時間をかけて鞣すことから。広い土地と長い時間が必要となります。
長い時間をかけて鞣されたタンニン鞣しによる革は、革の繊維がつまり、しっかりとした固い革に仕上がることが多いです。
靴の底材や、ココマイスターが使用しているオークバークという革は、オーク(楢の木)からとれたタンニンで1年もの時間をかけて鞣した革になり、耐摩耗性に優れた頑丈な川になります。
また、鞣された革の色はタンニン由来の黄色い色になりますが、使いづつけることにより、こい茶色へと変化していきます。革製品の醍醐味であるエイジングを楽しみやすいのはタンニン鞣しの皮といえるでしょう。
そのため、レザークラフトで使われる革はタンニン鞣しのものも多く、代表的なタンナーに栃木レザーがあります。
クロム鞣し
クロム鞣しは、鞣す液体としてタンニンの代わりにクロム化合物(Cr)の液を使った製法になります。
鞣し液と原皮をドラムの中に入れ、ドラムを回転させることによって短時間(1日程度)で鞣すすことができます。
クロム鞣し法の発見は1850年代と新しく、タンニン鞣しが非常に時間のかかる製法であるため、
現在の革製品ではクロム鞣しの皮が主流です。
クロム鞣しによって作られた革は、青白い色をしており(ウェットブルー)タンニン鞣しと比べ、柔軟性に富み、水にも強くなるため、鞄や靴のアッパーに使われることが多いです。
半面、経年変化はあまりなくコバの処理もあまりきれいにはならないことが多いですが、鞣しに時間がかからないことから、高級なものもありますが、安いものはタンニン鞣しよりも安く手に入れることができる印象です。
クロム鞣しとタンニン鞣しの皮の見分け方はコバを見るとわかりやすいです。
芯通し染めされていなければ、タンニン鞣しの革は黄色く、
クロム鞣しの革は青く見えます。
これらのほかに、クロム鞣しをした後で、タンニン鞣しをする、また逆の順序で鞣しを行うコンビネーション鞣しもあります。
次は後加工による革の種類や、加工方法の名称についてです。
グレージング
鞣した後の革にガラスの棒を圧力をかけてこすり、銀面に光沢を付ける後加工です。
型押し
革の表面に、一定のパターンの型をプレスして模様を付けた革。
後述するエキゾチックレザーは独特の美しい模様があり、それに見せられた人も多いですが、生産量が少なく高価であるため、エキゾチックレザーに似せたパターンの型押し加工をしたエキゾチックレーザ風の革も人気です。
シュリンクレザー
型押しと似ていますがが、こちらはプレスするのではなく、鞣しの際に特殊な薬剤につけることにより革を収縮させて表面にしわを出したものです。革が収縮することにより、繊維が荒く絡まっている床面はぎゅっと密になります。
繊維が密になることにより、革にコシが生まれ、また、丈夫で傷が目立ちにくくなります。
スエード
スエードは銀面ではなく床面を加工した革で、床面をサンドペーパーで起毛させることにより、柔らかい質感を持たせたものになります。本来のスエードは子羊の皮だったそうですが、現在は子牛の皮が主流です。
スエードという名前は、フランスで床面を起毛させた革で作られたスウェーデン製の手袋が流行したことに由来します。スエードは裏面の銀面を削っているものも多く、銀面を残した銀付きスエードは強度が上がり、より高価になります。
ヌバック
ヌバックは表面が起毛しているのがスエードと同じですが、こちらは銀面をサンドペーパーで起毛させています。
起毛素材としては、スエードのうち、毛並みが長いものをベロア。鹿革で作ったヌバックをバックスキンといいます(正確には、バックスキンを牛革で再現したものをヌバック「New Buck Skin」と呼ぶようになりました)が、レザークラフトではあまり使われない素材かもしれません。
Timberland等、ワークブーツでよく使われる印象ですね
エナメル加工
牛革の銀面に樹脂でコーティングしたものをエナメルレザーまたはパテントレザーといいます。
雨に強く、均一な光沢が特徴ですが、革らしさは少し足りないかもしれません。
エナメルレザーを別名パテントレザーという名称は、エナメル加工を開発した業者がエナメル製法に特許(パテント)をとったことに由来します。
牛以外の哺乳類
ここにあげる動物は、主に人によって食用に飼育されているものを上げています。
これ以外のものは哺乳類であってもエキゾチックレザーと呼ばれるようです。
コードバン
コードバンは、今回のブログを書くきっかけとなった素材で、革の宝石と呼ばれ、その光沢に魅せられた人も多いです。
コードバンは馬のお尻の皮からとれる素材ですが、すべての馬のお尻からコードバンがとれるわけではありません。
コードバンは、食用の農耕馬から生産されます。農耕馬は野生の馬に近く、野生の馬は肉食動物から柔らかいお尻を狙われるため、そこにコラーゲンでできたコードバン層を作り、お尻の肉を保護しているそうです。ちなみにシマウマは全身にコードバン層があるそうな。
また、品種改良されたサラブレッドやポニーにはこのコードバン層がないそうです。
食用の農耕馬の需要は減少しており、コードバンの希少化に拍車をかけています。
コードバンは、そのコラーゲンの層がある原皮をまずタンニン鞣しでじっくりと鞣します。クロム鞣しで鞣すと変性してしまい、コードバンにはならないそうです。
コードバンは銀面と床面の間にありますので、鞣した革から職人の目を頼りに銀面を削りコードバンを削り出していきます。
この削り出す作業、宝石を掘り出すのに似ていますね。
削り出したままの状態ではヌバックのような状態です。これにグレージングの加工をすることによって、あの光沢が生まれることになります。
コードバンは繊維が密でとても強度がありますが、ヌバックの毛を寝かしたような素材ですので、水に濡らしてしまうと、水膨れのような跡ができてしまいます。
これは起毛の間に水が入った状態ですので、上から強い圧をかけることである程度改善させることができます。
日本のタンナーさんだと新喜皮革さんが有名ですね。
コードバンの名前は、コルドバという土地で生産された山羊革に似せたもの、という由来だそうですが、複雑な製法である割にその起源も謎で、コルドバという地名も複数あるため、謎めいた革でもあります。
ホースレザー
ホースレザーはそれ以外の馬の皮ですね。タンニン鞣しのものもクロム鞣しのものもあるようです。ホースレザーは柔軟でしっとりした手触りで、ライダースジャケットによく使われます。
羊革
子羊の革はラム、大人の革はシープスキンと呼ばれ、一般的に牛革よりも薄く、柔らかい手触りになります。
山羊
羊と似た革ですが、羊と比べ強度があります。子山羊の革はキッドスキンと呼ばれ、革靴で使われることがあります。
豚革
豚革はピッグスキンとも呼ばれ、国内で原皮の調達から生産・輸出ができる数少ない革です。
銀面には3つまとまった毛穴が見られ、これにより通気性に優れます。
また、薄くて軽く、比較的安価であることから、革製品の内装でよく使われます。
ペッカーリーと呼ばれる革も革製品で見かけますが、これはペッカリーというイノシシ科の動物から作られた革です。豚の親戚ですね。
シカ革
牛や羊と比べ行動的なため、傷が多く、銀面を削り落としたものがつかわれることが多いです。
銀面を落としたものはセーム革と呼ばれ、柔軟で肌触りもよくなります。
奈良では害獣駆除の関係で、鹿革の生産があるようです。
カンガルー
今回紹介はしましたが、レザークラフトではあまり見かけず、レザースニーカーなどで使用されることが多いですね。
正直なところ、ここら辺の草食動物系の革は あまり違いがわからないですね(^-^;
昔レザーフェアで革当てクイズがありましたが、全然当たりませんでした…
エキゾチックレザー
爬虫類や食用されない象など希少性の高い動物で作られた革をまとめてエキゾチックレザーといいます。これらの動物は独特の模様があり、それぞれに愛好家がいますが、その希少性から乱獲を防ぐため『絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES:通称ワシントン条約)』で保護され、生産量が制限されています。
ヘビ革
小さな鱗模様とと背中に大きく入ったマーブル模様が美しい革です。
おなかから開いて背中のマーブル模様メインの模様とするか、背中を開いておなかの鱗をメインの模様にするかで風合いが異なります。
ワニ革
クロコダイルレザーとも呼ばれる革は、おなかの大きく四角い竹腑と、背中に行くにつれだんだん小さく丸みを帯びてくる丸腑といううろこの模様が特徴です。
竹腑をメインにするか丸腑をメインにするか、おなかと背中のどちらをさくかで風合いが異なります。
エイ革
ガルーシャとも呼ばれ、リン酸カルシウムでできた硬質な粒模様をした革で、日本でも古くから、刀の柄の装飾に利用されてきました。
ガルーシャレザーはその中心にスターと呼ばれる白い斑点が特徴で、このスターをアクセントにしたデザインはとてもかっこいいです。
その他、エキゾチックレザーには
象革・アザラシ・ダチョウ・トカゲ革(リザード)・シャークスキン等があります。
以上となります。
いかがだったでしょうか。全部知っているよ!という方もいらっしゃるとは思いますが
レザークラフトをする際に、この情報がお役に立てれば幸いです。