秒速5センチメートル
正直、原作のアニメ映画版は好きですか?
と聞かれると、否
18年前、就活中の学生だった私にはあまりにも棘が強すぎて、
新海監督作品は、大ヒットした「君の名は」まで触れることすらできなかったくらい
禁忌の作品だったんです
それも「君の名は」は凄く良かったですし、その後の「天気の子」に至ってはオールタイムベストの一つといっても過言ではないくらい好きな作品
新海誠作品に関する印象も変わったし
作品を受け止める私のパーソナルも変わったし
案外いけんじゃないかな、ということで見てきました
秒速5センチメートルのざっくりとしたあらすじ
身もふたもない言い方をすると、幼少の頃の恋心をずるずると大人になるまで引きずった結果何もかもがダメになる哀れな男が、希望が呪縛に代わってしまったことに気づく物語なんだけど
結論が分かっている分、初見の18年前と違って割とすんなりとみられました
むしろ終盤まで、逆に原作から結末が離れていくんじゃないかという展開にソワソワしたり
まぁ、帰宅してプライムビデオで原作見直したら、原作それそうな展開も含めて普通に原作準拠だったりしたんですけどね
なので、かなり原作のアニメ版に準拠した作品だと思います
まだ将来も何もわからない、むしろこれから決めるんだって就活生の時にこんな内容の映画を見たことが一番悪かったですね
実写版で描かれる「彼の救済」
実写版が原作と比べても良かったなと思う点が
主人公の遠野の救済をしっかりと描いた点ですね
原作はほとんど過程の描写に終始していたので
彼が過去にとらわれていたことに気づき、顧み、次のステップに進もうとする
そこにグッときました
20年ぶりに原作を見返しましたが、60分はさすがに詰め込みすぎと感じましたね
結末に至る描写も、結末に至った後の余韻ももうちょっとほしかった
もちろん、それと引き換えのテンポの良さは間違いなく原作にはあったと思うのですが、描写が足りなかった部分で18年前の私はネガティブな感情を刺激された気がするので
過去と決別し、前を向く
彼の魂の救済ともいうべき、
呪縛となってしまった過去の思い出から解放されるための展開をしっかり丁寧にやってくれたのでめちゃめちゃ良かったです
あの一人しかいない桜最高でしたね
主人公の目に人影が写っているように見えていたのもえぐくてよい
そもそも主人公だって(ヒロインの代わり程度にしか思っていなかったんだろうけど)彼女を作っていたんだし、ヒロインが彼氏を作っていないわけがないんですよねー
ヒロインはちゃんと今彼と向き合っていた、主人公は向き合えていなかった
向き合えていなかった自分を顧みて、元カノとちゃんと分かれるために最後に会うのも凄く良かった
(あそこでより戻さなかったのもすごく良かったけど、18年前だったらさらに心えぐられてただろうな…)
そうやって過去の呪縛を丁寧に丁寧に解きほぐしての、満を持しての踏切だったので
電車が去った後、つきものが取れたかのようなさわやかな笑顔で終わっていくの
正直凄く良かったです
原作だとモノローグで「振り返ったら、彼女も振り返ると強く感じた」とか未練たらったらで、それはそれで自分がすがっていた思いは全く見当外れだったと気が付いて、肩の力が抜けてしまって吹っ切れた。という解釈もできるのかなとは思うけど
ちょっと道化が過ぎる気もするので、実写版の、今回の再解釈のほうが好きですね
長くなってエグみが増した部分も
もともと60分しかなかった映画を2時間に増量したので
描写が増えた分ラストの展開の理不尽さが増したかなぁという気もする
主人公の心の楔になっている小学生の頃の幸せな思い出がより具体的になった結果
ここまでの思い出があって、主人公とヒロインで向かう先が違うのかと結構えぐってくる
男性の思い出は上書き保存
女性の思い出は名前を付けて保存
そして男性は、上書きできなかったがゆえにその後の恋がうまくいかない
序盤の主人公の、今カノへの塩対応も結構えぐくてしんどかった
主人公のダメ男っぷりが見ていてなかなかにきつい序盤
思ったよりもあまあまで本当に原作と同じ結末になるか不安になる中盤までは正直ハマっていなかったんだけど
ラストの展開は本当によかった
中盤は場面の繋がりも捉えにくかったんだよなぁ。好意的に言うと余白があるってことなんだろうか
キャストも最高でしたね
主演の松村北斗さん抜群に良かったなぁ・・・
最初から最後まで凄く良かった
ファンの方がしきりに「ああいう役をやらせたら松村さんは絶品」
とほめていたので、ほかの作品も興味が湧いてきました
ファーストキスはもともと見たいと思っていたんですよね
また、遠野のメンターとなってくれていた、
前職の上司役の岡部たかしさんのひょうひょうとしつつも面倒のいい感じは
「この夏の星を見る」の先生と同じ空気感があって凄くなじみましたし
そして、新しい職場、科学館の館長を演じられた吉岡秀隆さんも抜群に良かった
優しい目で見守る役が嵌りすぎる
ちょっと気になる点も
ただ、実写化の方で気になったのが、社会人になった主人公が何でここまで闇落ちしたか、そこの納得感が少なかったかも?
原作だと、最後にダイジェストで、雪の日電車に乗ってヒロインに会いに行った後もそれなりに文通が続いていったのに、ヒロインの側から途切れてしまった描写があるので何となくここが闇落ちポイントなんだろうなぁというのが感じられたのだけど
実写だと桜の木の下でかなりちゃんといちゃついていたり、翌日も笑顔で分かれていたりであんまりネガティブな雰囲気ないんですよね
まぁ、あの場でヒロインは交換日記を渡すのをためらってやめるので、交流はあそこでばつんと途絶えるのですがそこは明言されていないし、途絶えたことに関して主人公が抱いた感情も明言していないので、交流が彼女の方から途絶えた”のだろう”と推測はできるけど作中でそれが重要なように描かれていないので、闇落ちした理由と結び付けづらいんですよねぇ
というか、大雪の中止まるかもしれない電車に乗って、小学生のみで栃木まで来てくれたのに、何で交換日記を渡さない決断をしたのかがわからない
渡せなかった
じゃなくて
渡さなかった
なのよね
全く分からない。ヒロイン、主人公の事をあの場面で「思い出にしようとした」
ってこと?とおもうと、描写が増えて思わせぶりな発言も増えた分
余計ヒロインに感情移入も理解もできなくなってしまったなぁというのは結構残念かも
あー、栃木-種子島の遠距離恋愛無理だわー
ってなったってことなんですかねぇ…
というのはさすがに悪意がありすぎか…
最後に
見たときよりも、振り返っている今のほうが楽しんでいるかも?
噛めば噛むほど味の出る作品ですね
18年間振り返らないようにしていた原作をもう一度見る機会を得られたという点でも見てよかったでう

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